Cinema English6

みなさん、1999年度のアカデミー賞5部門を制覇した「アメリカン・ビューティー」、 ご覧になりましたか?
真紅のバラに埋もれる美少女、郊外の庭付き一軒家、夫のリストラ、妻の不倫、曖昧なタイトル....予告を見て、またハリウッドの偽善的ファミリードラマだと思って見過ごしていた方は、だまされたと思ってビデオ借りて見てください。
  私が進まない足を映画館に運んだ理由はただ一つ、監督がイギリス人だということ。
犬の散歩とアメリカの悪口が大好きなイギリス人、しかも英国演劇界で名を馳せている新進気鋭の演出家だとすれば、ハリウッドで、それもこんなタイトルでただのアメリカ 映画を作るはずがない。
結果は、ミスコンの話でも「ビバリーヒルズ青春白書」のよう な甘ったるいドラマでもありませんでした、やはり。画一化された嘘くさい美に囲まれて閉塞した男が、日常の中にささやかで多様な美を見出だすまでのお話で、悲しいはずなのにやさしいようなうれしいような、不思議な地点に着地する映画でした。
見終わって静かだけれど悪くない気分です。   

 まず冒頭に、手持ちビデオで録画された短い不穏な映像が流れます。

(不機嫌そうな女子高生がカメラに向かって)
  Somebody really should put him out of his misery.              
   −誰かほんとに、あんな惨めな人生から彼を楽 にしてあげるべきだわ。  
(カメラをもつ声がたずねる)
  Want me to kill him for you? 
   −彼を殺して欲しい?   
(少女は間を置くが、そっけなく)
  Yeah, would you ?       
   −そうね、殺ってくれる?  

そして郊外新興住宅地の鳥瞰図とある男の語りで、映画はこんなふうに始まります。

This is my street. This...is my life. I'm 42 years old. In less than a year, I'll be dead. Of course, I don't know that yet. And in a way, I'm dead already.
 
   −これが、僕の住んでいる通り。これが.....僕の生活。僕は42歳で一年もしないうちに、死ぬ。もちろん、
    僕はまだそのことを知らない。それに、ある意味じゃぁ、もう死んでるようなもんだ。


 主人公は、この役で主演男優賞に輝いたケビン・スペイシー演じる冴えないサラリーマン、レスター・バーナム、冒頭で少女に死んで欲しがられている彼女の父親です。妻のキャロリンは不動産ブローカーで、「成功」を追い求めて日夜がむしゃらに自己暗示をかけるまくる上昇志向型。
「人生の成功」が画一化された世界においては、人は勝者か敗者のいずれかで、食卓を挟んで画面左には勝者になるべく悲劇的に前向きな妻、右にはやる気も存在感もなく、おまけに近々職もなくなる予定のレスター。中央には母親の過干渉にも父親の無関心にも嫌気のさしている不安定なティーンエイジャー、ジェー ン。
これがバーナム家の日常風景ですが、ある日突然、レスターが溌剌と仕事を辞任、筋肉トレーニングなど始めたことからドラマが展開します。原因は、こともあろうに娘の親友アンジェラへの恋。
平凡が死ぬほど嫌いでスーパーモデル気取りの美少女アンジェラに恋する中年オヤジ。予告で、誘うようにバラの花びらに全裸で埋もれてい たのが彼女。もちろんレスターの妄想ですが...。 失業・ローン・ロリコン。
ジェーン にはもうこのオヤジ、理解を越えて生理的嫌悪感100%。

He's just too embarrassing to live ! (パパが生きてること自体恥ずかしい !)

 そこで冒頭の台詞となります。  レスターの人生を変えたのが20年ぶりの恋ならば、満たされないジェーンの生活を変えていくのが、隣に越してきた海兵隊フィッツ大佐の息子、ちょっと変質的なビデオフリークのリッキーです。厳格な父親に、落伍者の烙印を押され精神病院で過ごした経歴を持つ一方、ヤクの売人として着実に資金をためる風変りな青年。病んでいるのかしたたかなのか、彼の目は異常者のようでもあり冷徹な見者のようでもあります。怒りや不安を愛想のよい表情で包み隠そうとしないジェーンに、リッキーは彼独自の「美」を 見出だし、ビデオカメラをまわし続けます。「多様であることの豊かさと美しさ。喜びも悲しみも失敗も成功も、すべてが一瞬一瞬の命の輝き。 この世界はありのままの作られていない美に満ち溢れている、その瞬間を忘れないように」と。
彼のストーカーまがいの行為にひるむどころか、ジェーンは次第にリッキーに共感を覚え始め、一方、自分の美 貌に見向きもしない「異常」なリッキーをアンジェラはサイコ扱い。

Ricky : She's not your friend. She's somebody you use to feel  better about yourself.
Angela : Go fuck yourself, psycho !
Jane  : You shut up, bitch !
Angela : Jane !! He is a freak !
Jane  : Well, then so am I !  And we'll always be freaks and we'll never be like other people. And you'll
     never be a freak because you're just too perfect.
Angela : Now...Well, at least I'm not ugly.
Ricky  : Yes, you are. And you're boring. And you're totally ordinary. And you know it.
Angela : .....you two deserve each other !

リッキー :ジェーンは君の友達なんかじゃない。君が優越感を感じるために利用してるだけの相手だ。
アンジェラ:引っ込んでなさいよ、サイコ野郎!
ジェーン :黙んなさいよ、でしゃばり女!
アンジェラ:ジェーン !! こいつイカれてんのよ!
ジェーン :そう、ならあたしだって同じ。あたしたち、二人ともイカれてるからいつまでたってもほかの人たち
       とは違うのよ。あんたは単に完璧すぎるから 、イカれることもできないんだわ。
アンジェラ:へえ、そう。(図星をつかれ、次の句がつなげないが、くやしまぎれに)...そりゃぁ少なくとも、
       あたしは醜くないから。
リッキー :いいや、君は醜い。それに退屈だ。完全に平凡だ。 そしてきみ自身それをわかってる。
アンジェラ:.....あんたら二人、お似合いだわ!  

 ストーリーは一気に複雑に絡み合ってクライマックスへ。嵐の晩、不動産王との浮気のバレた妻キャロリンは夫の死を願い、リッキーがレスターに身体を売っていると勘違 いした大佐は息子を家から追い出し、ジェーンはリッキーと町を去ることを決意。 レスターは傷ついたアンジェラを運よく誘惑することに成功し、夢のクライマックスへ(バラの妄想)... となるはずが、彼女の嘘で固めた人生の痛ましい告白で、一気に目が覚め我に帰ります。
娘のクラスメート相手に、俺は一体何をやってるんだっ...!?
泣き止んだアンジェラが あどけなくたずねた  How are you?(おじさんはどう?) の一言に、長年忘れていた、気づかわれることの喜びが甦ります。
気づかわれることの心地よさ、気づかうことの張り合い、生きることの喜び。
自らの人生や家族を振り返り 、今在ることの幸せを味わいながらいつになく安らかな気持につつまれた瞬間、レスターの人生は初めに予告された通り何者かの手で幕引きとなるのですが、一体何者かは見てのお楽しみ。遠のく意識のなかで、レスターの心は、リッキーが娘のジェーンにだけ打ち明けた、この世の「美」に満たされています。

  I guess I could be pretty pissed off about what happened to me... but it's hard to stay mad, when there's so much beauty in the world. Sometimes I feel like I'm seeing it all at once, and it's too much, my heart fills up like a balloon that's about to burst.... ...and then I remember to relax , and stop trying to hold on to it, and then it flows through me like rain and I can't feel anything but gratitude for every single moment of my stupid little life....

−僕の身に振りかかったことについては、相当腹を立てることもできる... でもこの世がこんなに美しいものに
  満ちているとき、腹を立て続けるのは難しい。 ときどき、すべての美を一瞬で目のあたりにしているような
  気分になって、 圧倒される。心臓が風船みたいに大きくふくれ上って今にも破裂しそうだ.... ....
  それで、もっと気を楽にもつことにして、それにこだわるのを止めてみる。
  すると、美は雨のように僕の中を通り抜けていって、あとは、ちっぽけで愚かな僕の人生の、瞬間瞬間へ
  の感謝の気持でいっぱいになる....

さて、言葉だけでは伝わらないこの何とも言えない満ち足りた感じを、アカデミー賞の演技でお楽しみください。オススメです。

                                                  文責:高橋 流美


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