|
「猪と狐」
猪が木の側で牙を研いでいた。猟師もいないし危険が迫っているわけでもないのに、どうして牙を研ぐのかと狐が問うと、猪が答えるには、「無駄にこんなことをしているわけではない。危険が降りかかったときに、研いでいる時間はない。準備のできているものを使うのさ」
今更ながら、本年は亥年ですので、猪なお話です。猪というと、猪突猛進という言葉が頭に浮かんでしまいますが、ここに登場する猪は、なかなか思慮深い存在として登場しています。この話における猪は、
lock the barn door after the horse is
stolen. <泥棒を見て縄を綯う>
では手遅れということで、
Look before
you leap. <転ばぬ先の杖>
に近い考え方をしています。危険に襲われてから準備していては、それは確かに手遅れですから、猪は先のことを予測して、あらかじめ準備しているわけです。すなわち、猪はここでその危機管理能力の一端を示しているのです。
一方、ずる賢いイメージで語られることの多い狐が、猪のそうした考えを見抜けなかったのか、とも思われますが、
「狐と犬」
狐が羊の群れに入り込み、乳を吸っていた子羊を捕まえ、かわいがるふりをした。「何をしている」と犬に訊かれ、狐は「子守りをして一緒に遊んでいる」と答えた。すると犬が言った。「さて、子羊を放さないと、犬との遊び方を見せてやるぞ」
という、なんともいえないお話もあり、全般的にどちらかというと場当たり的な特徴が見られます。狐は機転が利くために、様々な状況において、なんとか上手く事を運ぼうとするわけですが、上手くいくこともあれば、結局失敗してひどい目にあうこともあります。話の傾向としては後者の場合が多いようにも思われますが、それは狐がずる賢いイメージで語られていることと無関係ではないでしょう。
それはそうとして。ここで紹介した猪は、先を考えて用意周到ではありますが、それは受動的なものともいえます。これを能動的なものへと向けることができると、先を読み、用意周到な上での猪突猛進が可能となり、危機管理とは異なる面で大きな力を生むはずです。──まあ、先読みがはずれていると大変なことになりそうですが、その時はその時。最近はただただ衝動的な行動をとる人も多いようですし、突進する前に、少しは止まって考えてみることも大切ですよね。
|